国際科学振興財団 再生医工学バイオマテリアル研究所

研究概要

有機合成手法を用いたバイオマテリアルの設計開発

 生体にとって重要な役割を果たしている糖鎖を高分子に組み込んで「なじみ易さ」を誘導し医用材料とすることは興味深い試みである。
 糖タンパク質や糖脂質の機能を高分子に結合することが考えられるが、直接糖タンパク質や糖脂質自体を高分子に組み込むことは容易ではない。 最近では、糖合成技術の進歩により機能性糖鎖自体や糖脂質を全合成で得ることができるようになったが、医用材料として多量に使用するためにはコスト的な問題があり汎用性が低い。さらに、発達した遺伝子技術は、糖タンパク質の合成を容易にし、技術的に汎用化してきている。しかしながら、細胞のように空間的、時間的な制御をしながら糖鎖を導入した機能的な糖タンパク質そのものを得ることは不可能に近く、量はとれても肝心の糖鎖の機能が不十分であることが多い。 
 そこで、我々は、簡便に糖鎖を高分子に結合し、糖鎖に対する細胞認識性を向上させることを考えた。糖鎖含有高分子を天然の糖タンパク質や糖脂質に劣らない純合成機能性物質として新しいバイオ・メディカルテクノロジーへ応用したいと考えている。このような機能性物質は糖鎖を介して細胞認識性を有するほか、主鎖骨格の多様性、第2・第3成分の付加(共重合)、物性のコントロール(高次構造・強度・溶解性)が容易であるという合成高分子ならではの特徴を有する。従って、医療材料に様々な局面で、種々の機能及び物性が求められる臨床の場で需要に対応できる糖鎖高分子が作り出せると思われる

PDFが開きます

遺伝子組換え手法を用いたキメラ抗体型バイオマテリアルの設計開発

 iPS細胞は、作成方法やソースの細胞に依存して、その未分化度合いや分化細胞への誘導効率などが異なる場合があると報告されている。しかし、この性質を確認するに方法は、CiRA、らによるiPS細胞上のIGF2の発現が、血液細胞への分化において非常に相関性の高い重要なファクターになっているとの報告がある。しかし、これが全てのiPS細胞の指標になっているかは、全く不明である。
 従って、iPS細胞の標準化は現在のところ非常に難しい状況である。そこで、標準化のために、
① iPS細胞を培養時の基質への接着挙動だけで、iPS細胞を差別化できる。
② iPS細胞の未分化増殖の課程を観察するだけで、分化細胞へ誘導できるかどうか判断できる。
③ iPS細胞の細胞培養用接着基質に対する接着性が、1つの因子で差別化できる。
などの非常に簡便な方法でiPS細胞の標準化を培養系で評価出来るキメラ抗体を設計開発することとした。
我々はこれまで、マウス型キメラ抗体(mE-cad-Fc)を用いて、マウスES細胞を単細胞培養することに成功している。ヒト型キメラ抗体(hE-cad-Fc)を用いたヒトES細胞、iPS細胞の培養では、2次元コロニーによる培養ではあるが単細胞に近い培養方法の確立と未分化増殖に成功している。また、このキメラ抗体上で培養されたES/iPS細胞は、キレート剤の添加によって簡単に回収することができること。さらに、他のキメラ抗体と組み合わせることで、分化誘導を促進させ、また分化誘導細胞をキメラ抗体への特異性を用いることで単離・純化できる可能性を示してきた。
 そこで、iPS細胞の標準化に関して検討し、ヒトiPS細胞がhE-cad-mFc上で培養できるラインと培養できないラインが存在することを見いだしている。つまり、ヒトiPS細胞を培養するだけで良好なラインを単離できる可能性を示してきた。
 これらの情報をさらに一般化し、下記のごとくES/iPS細胞の高効率培養方法と標準化指標を確立していく。

PDFが開きます

炭酸アパタイトナノ粒子を用いたDDS・GDSの開発

 従来の細胞へ遺伝子の導入手法である1.ウイルスベクター法、2.リポソーム法、3.物理化学法、4.イオンコンプレックスキャリアー法などは、数年にわたる研究が進んでいる。現在最も効率の良いアデノウイルスによる遺伝子導入では、ウイルス量を高濃度で使用することによる免疫反応や完全に無毒化できない可能性があるなどの問題点が指摘されている。その他の方法論も、安全性、効率、細胞障害などの問題が多く含まれている。
 我々が提案する炭酸アパタイトナノ粒子を用いた遺伝子導入方法は、イオンコンプレックス法に属するが、これまでのキャリアーと異なり、高効率を誇るウイルスベクター法に迫る手法である。このような安全で、高効率な遺伝子導入を可能にしたベクターは、世界的にも例が無く、独創性、新規性共に高い。炭酸アパタイトナノ粒子が細胞に取り込まれやすい性質を利用しており、取り込まれた炭酸アパタイトナノ粒子は、取り込まれた細胞のエンドソーム内pH変化によって、pH変化に敏感に反応し、速やかに遺伝子を細胞内に放出する。そのため、遺伝子の発現効率が非常に高いのが特徴である。
 炭酸アパタイトナノ粒子は、安価で、作成しやすく、どのような遺伝子(DNA,siRNAなど)にも対応でき、さらにウイルス法に匹敵する遺伝子導入効率を持っている。今回、この炭酸アパタイトナノ粒子に細胞特異的糖鎖、タンパク質・ペプチドなどの修飾を行い、生体組織への指向性を付与する事により、遺伝子治療も視野に入れた特定の細胞・組織のみをターゲットと出来る遺伝子導入剤の開発を目指す。炭酸アパタイトの表面で糖鎖、タンパク質等とのチャージコンプレックスを形成させる。このようなコンセプトはこれまでになく、画期的な方法である。
 炭酸アパタイトは、リン酸、炭酸、カルシウム、マグネシウムからなり、DNAを相互作用させた後、細胞と反応させることでエンドサイトーシス経由で取り込まれ、細胞内エンドソームにおいて速やかに炭酸アパタイトが崩壊し、細胞内へDNAを効率よくリリースできることを特徴としている。
 さらに、最近、炭酸アパタイトナノ粒子に対し、タンパク質や薬物を相互作用させ、細胞へデリバリーすることができるということが明らかになった。

PDFが開きます

参考資料

生体機能材料学

 

この本は理工学部の学部学生に向けて書かれていますが商学部・経済学部・法学部など文科系学部学生にも理解して(チャレンジして)もらえるよう工夫して書かれています。

この本は人工臓器や再生医療やドラッグ(遺伝子)デリバリー・システム(DGDSに利用できる生体機能材料(バイオマテリアル、バイオメディカルマテリアル)についての教科書として書かれたものです。人工的に設計された材料やタンパク質材料を私達の体に触れさせたり、埋め込んだりすると、体がこれらの異物を排除しようと反応しますから、体によく適合し共存・機能する人工臓器用材料や(DGDS用材料、再生医療用材料を作るためには私達の体の正常な仕組みと異常の度が過ぎ病気になる仕組みを少し知っておかなければなりません。血糖値やカルシウム濃度や体温などの体のシステムが恒常的かつ安定に維持される原動力、外から侵入してくる細菌・異物・毒物に対して身を守るメカニズムについて最低限重要なことがやさしく説明されています。このような恒常性維持システム(ホメオスターシスとも言います。)や生体防御システムは本来私達の体を構成する60兆個270種類の細胞の集団社会の維持システムなのですが、人間社会の政治・経済・財政・経営・医療システム・安全保障・軍事作戦等々の現象と類似していることが多いので(もちろん似ていないこともありますが)文科系分野にもとても参考になることが多いのです。

致命的な病気や先天性疾患に対する診断や治療に関する材料(バイオマテリアル)が関わる最先端医療工学の研究分野への招待を目的にその基礎を語るのがこの本の目的でもありますが、本書の全編を通じて私達の身体が保有するスマートなシステムが“やさしく幅広くそして面白く”のキャッチフレーズに基づいて書かれています。分野の異なる読者の皆様も自分の両親から授かった体の一部である細胞が、そしてタンパク質や遺伝子(DNA)がいかにすばらしいメカニズムで働いてくれるのか!そしてなんと美しくも賢く集合して組織・臓器・器官が出来上がっているのか!感動することもあるでしょう。現在の人工臓器や再生医療、(DGDSなどが決して完璧なものではないことも良くわかるでしょう。それゆえこの本を読むことが、より一層生命への尊厳、さらには隣人・人類への尊厳の気持ち、自分を生んでくれた両親への感謝の気持ちが高まるきっかけになると著者は確信しています。と同時に生命システムの優れたメカニズムについて、ある時は学び、取り入れ、さらにその足らざるをあなた方ご自身が英知で補い、政治や経済、経営、そして安全保障、危機管理などに有効に応用することにより地球、環境、資源の保全と戦争のない平和な社会、経済、運営のきっかけにも本書がわずかでも寄与できることを願っています。

というわけで本書は薄く簡単な教科書ではありますが、著者の生体機能材料(バイオマテリアル)研究30年の総決算であり、生命科学分野にシフトしてから他の分野を眺め交流(クロストーク)しつづけた30年の実感を凝縮したものと言えます。

宣伝風にまとめれば先駆性、独創性を志して医学・生物学(生医学)と材料工学(特に高分子科学)の境界/学際分野を開拓してきた著者の熱い思いを背景に若き世代へ贈らせていただくメッセージとも言えるでしょう。

seitai4.pdf へのリンク へのリンク